スポーツ経験者の中で「試合のときにいつも緊張してしまう」「ここぞという時に必ずミスをしてしまう」という方も多いのではないでしょうか。そんな時に役立つのが、スポーツ心理学という学問です。
スポーツ心理学は「スポーツに関する課題点を心理学的側面から検証して、スポーツの実践や指導に役立てるための学問」だと言われています。このスポーツ心理学を上手に活用することで、アスリートの集中力やパフォーマンスの向上といった効果が期待できます。
スポーツ心理学の分野を取り扱う職業で活用できる資格があれば、アスリートのパフォーマンス効果をより効率的に上げることも可能です。
そこで今回はスポーツ心理学についての概要と、スポーツ心理学の職場で活かせる資格3選を紹介します。スポーツを心理学的の観点から学んでみたい、という人には必見の内容です。ぜひ、最後まで読んでみてください。
スポーツ心理学とは
スポーツ心理学とは、いわば「心と精神の状態がスポーツにおける結果や過程にどのような影響を及ぼすのか」について検証する学問のことです。さらに簡単に言うと、スポーツに関わる人がどのような考えを持って、どのように行動して、そしてどう感じるかについて分析していく学問だと言えます。
スポーツと精神の関連性が明らかになれば、アスリートのパフォーマンスをより高めたり、良い指導やコーチングをしたりすることができます。
スポーツ心理学は領域が広い分野ですが、大きく2つの分野に分けられます。
- データ中心の研究:日本を中心とした、イメージトレーニングの心理やパフォーマンスへの影響の研究
- 実験中心の実践的な研究:欧米を中心とした、スポーツを通じてクオリティオブライフや人生についての考え方をより良くしていくための研究
スポーツと心の状態は非常に関連性が高いです。そのため、現在に至るまでスポーツ心理学の研究領域は多岐に渡っています。特に、スポーツと生活の質の関連性については研究が盛んにされています。
捉えどころがなく難しい分野ではありますが、まとめるとスポーツ心理学の考え方とは「精神的、心理的な要因がスポーツのパフォーマンスや過程、結果にどのように影響するか」について検証していくことです。
スポーツ心理学の歴史
スポーツ心理学の歴史は古く、特に1920年以降欧米で盛んに研究されるようになりました。さらに1950年ごろから旧ソ連が宇宙飛行士向けのトレーニングノウハウをオリンピック選手に活用したことから、スポーツ心理学が急激に普及し始めたと言われています。
日本では第2次世界大戦後にスポーツ心理学が研究され始め、1950年には国内で日本体育学会が設立されたり1965年には国際スポーツ心理学会が発足するなど、時代と共にスポーツと心理についての研究が活気づいてくるようになりました。
スポーツ心理学の目的
では、なぜスポーツ心理学が盛んに研究されているのでしょうか。スポーツ心理学を学ぶその目的について見ていきましょう。
アスリートの心理状態の分析
プロやアマチュアに関係なく、アスリートのプレイスタイルは、心理状態によって変化します。たとえば、対戦相手に怒りの感情を抱けば雑なプレイとなり、恐怖の感情を抱くと実力が出せなくなる人もいます。
このように、スポーツ心理学を学ぶことで「選手自身が自分の心理状態を把握して分析する」ことが可能になります。
アスリートのコンディションやパフォーマンスの調整
スポーツ心理学を学べば、アスリートのコンディションやパフォーマンスを「意図的に」調整することができます。アスリート各々の心理状態に対するコンディションやパフォーマンスの変化を把握しておけば、その都度トレーニング内容を変更したりモチベーションを上げられる声掛けができます。
そうすることで、緊張したり無駄な力が入ったりせずに通常のパフォーマンスを発揮させることも可能です。
アスリートのモチベーション向上
スポーツ心理学を上手に活用すれば、アスリートのモチベーションを「意図的に」引き出すことが可能です。何をすればモチベーションが上げられるのか、それはアスリートたちによって異なります。声掛けや試合前の願掛け、精神統一をするなどその方法はさまざまです。
スポーツ心理学によってそれぞれのモチベーションを引き出す方法を考案できるので、いつも以上の実力を発揮してベストコンディションで試合に出場させることも可能です。
スポーツ心理学の現状
戦前よりスポーツ心理学は研究がされていますが、まだ実践で使用できる領域まで来ていないのが現状です。というのも、今スポーツ心理学で実証されているのは、「この心理状態になると〇〇という動きをする」という因果関係のみだからです。
試合になるとボールが真っすぐ投げられないことは分かっていても、どうすればボールを真っすぐ投げられるのかについてはスポーツ心理学では検証できないということです。
とはいえ、現在は研究も盛んに行われているため、今後もさまざまな研究結果が期待される注目の分野であることは確かでしょう。
スポーツ心理学の概要
日本スポーツ心理学会の「スポーツ心理学辞典」には、スポーツ心理学の領域とその内容について以下のように記載しています。
分野 | 各分野の概要 |
スポーツ運動の発達 | 一生涯の身体、運動発達やスポーツ 経験の心理的発達への影響について |
スポーツの運動学習 | 「運動制御」や「運動学習」の側面からの運動スキル獲得について |
スポーツの動機づけ | スポーツへの参加や継続に関わる動機づけや心理社会的要因について |
スポーツの社会心理 | スポーツ集団における個人の行動、思考、価値観 |
競技の実践心理 | 競技スポーツの心理的特質、実力発揮に関わる心理要因、コーチングに関する心理要因について |
スポーツメンタルトレーニング | リラクゼーションやイメージなどのメンタルトレーニングがパフォーマンスに及ぼす影響について |
健康スポーツ心理 | 身体活動や運動のクオリティオブライフ、メンタルヘルスへの効果について |
スポーツ臨床 | スポーツに関わる課題の解決、人格的な成長を目指すための心理支援方法 |
スポーツ心理学を通じてアスリートが得られるスキル
スポーツ心理学を活用することで、アスリートたちはどのようなスキルを得られるのでしょうか。ここでは、そのうち重要な5つのスキルについて紹介します。
イメージの活用
試合前にどのようにプレイをするか、試合の流れをイメージすることができれば、ゲームを有利に進められます。
注意力のコントロール
長時間のプレイになったとしても常に注意力を切らさずに試合をすることができれば、試合中も最高のパフォーマンスを維持できます。
適切な目標設定
目標を立ててそれに向かってトレーニングを進めるのは大切ですが、あまりに目標が高すぎたり低すぎたりしてもアスリートの成長につながりません。努力をすれば達成できる程度の適度な目標設定を立てることで、心身ともに鍛えられるだけでなく常にモチベーションも高められます。
心理的エネルギーのコントロール
身体的な疲労だけでなく心理的な疲労をコントロールできるようになると、本番にエネルギーを温存したまま試合に臨むことができます。
ストレスの管理
日常生活でのストレスも、試合中のパフォーマンスに大きな影響を与えます。ストレスを解消し精神的な負担を軽減させることも、アスリートにとって大切なスキルのひとつです。
スポーツ心理学の主な資格3選
スポーツ心理学を学ぶ上で、メンタルトレーニングなどに関する資格の勉強は非常に役立ちます。ここでは、スポーツ心理学を取り扱う職場で活かせる、おすすめの資格3選を紹介していきます。
スポーツメンタルトレーナー
効果的なトレーニングを続けられる意思の力を育み、本番で実力を発揮したり競技力を挙げられるように心理的側面からサポートするための資格です。アスリートやチーム、そしてコーチが抱えている課題に向き合い、それらを解決できるようなメンタルトレーニングの指導を行います。
メンタルトレーニングスペシャリスト
緊張や不安など精神面の課題を自分自身で乗り越えられるように、アスリートのサポートをする資格です。メンタルトレーニングに必要な自己分析や目標設定、セルフコントロール、イメージトレーニング、リラックス法の5つの分野について学び、適切なメンタルトレーニングを実施します。
スポーツメンタルトレーニング指導士
アスリートに心理的な指導やサポートができる専門家です。スポーツメンタルトレーニング指導士の資格を取得するためには大学院でスポーツ心理学などを学ばなければいけません。また、研修会への参加やアスリートへの心理的指導などの実績を積む必要もあります。一般的なメンタルトレーナーの資格よりも難易度が高いため、非常に権威性が高い資格です。
スポーツ心理学の知識が活かせる職業
スポーツ心理学の知識を活かせる職業にはどのような仕事があるのか、ここでは5つの職業について解説していきます。
臨床心理学者やカウンセラー
うつ病や摂食障害など、現代人のメンタルヘルスに関する問題は深刻です。精神的な問題を抱えていると、パフォーマンスにも影響が出てきてしまいます。スポーツ心理学の特性を活かすことで、心身の健康をサポートしてアスリートの競技力やメンタルの向上につなげられます。
研究者
モチベーション向上などスポーツメンタルに関するあらゆる研究を大学の研究室や企業の研究機関で行う研究者として活躍する機会もあります。実践でスポーツ心理学を活かすのではなく、学問としてより深く学びたいという人におすすめの職業です。
スポーツリハビリ療法士
アスリートが試合でケガや故障をした際に、心理的なサポートをするのがこのスポーツリハビリ療法士です。ケガによる心理的な悪影響によってその後のスポーツ生命が左右されることもあるので、試合に完全復帰するまで精神的なケアを徹底する必要があります。
プロチームのコーチ
スポーツ心理学を活かせる職場のなかでも人気の職業なのが、大学などのプロチームのコーチです。良いコーチはチームのメンバーをどのように励まし、鼓舞するかを心得ています。アスリートを誰よりも近くで見て知っているコーチだからこそ、スポーツ心理学の特性を利用した指導をする機会も多いです。
大学の教員
大学生や大学院生に教師としてスポーツ心理学、メンタルトレーニングを教える大学の教員になるというケースもあります。仕事の枠は少ないものの、研究や指導、メンタルトレーニングなどさまざまな業務を担当できるのはこの職業の魅力です。大学によってはコーチと教員の仕事を掛け持ちで請け負うことができるところもあります。
スポーツ心理学の現場における理想的な人物像
スポーツ心理学を学び、そして現場で実践していく上で理想的な人物像はどのような人物なのでしょうか。その特性について見ていきましょう。
プライバシーを守れる人
スポーツ心理学を実践するメンタルトレーナーたちは、アスリートの精神的な問題に耳を傾ける機会が非常に多いです。中には個人情報などプライバシーに大きく関わるものもあるので、守秘義務を徹底して守れる人物が理想的です。
アスリートとの良好な信頼関係を築くためにも、プライバシーを守れる人というのは絶対条件だと言えます。
人をサポートすることが好き
スポーツ心理学を扱う職業は、相手の悩みを解決したり、目標達成のためのサポートをしたりすることが多いです。そのため、人助けや誰かをサポートすることに喜びを感じる人物に向いていると言えます。
相手に寄り添い、陰から支えることでその人のパフォーマンスを向上させることにやりがいを感じられる人が理想的でしょう。
まとめ
スポーツ心理学とは、「心と精神の状態がスポーツにおける結果や過程に与える影響」を検証する学問です。試合本番で実力を出し切るための精神的なサポートに役立つ学問なので、スポーツの現場でも非常に実践的な分野だと言えます。
スポーツ心理学が包括する領域は非常に広いですが、この学問の中核は「いかにアスリートのメンタルサポートに役立てられるか」ということに尽きます。
今回はスポーツ心理学を職場で活かしていく上でおすすめの資格やスポーツ心理学に関する知識を役立てられる職業についても紹介してきました。いずれもアスリートのメンタルサポートにおいて非常に役立つので、スポーツ心理学を通してアスリートをサポートしたい人はぜひ検討してみてください。